マーケットコメント―中東での紛争激化でゴールドと原油が急騰

投稿日: 2023年10月16日18時35分(JST)投稿. 詳細を読む JP Blog

・イスラエルによるガザ地区への地上戦開始で、ゴールド急騰
・地政学的懸念とフィラデルフィア連銀総裁のハト派発言が重荷に
・中東紛争による原油供給の混乱への懸念高まり、原油価格高騰
・S&P500とナスダックは地政学的懸念が好調な決算報告を相殺して下落

イスラエルとハマス間の紛争が激化する中、ゴールド上昇

先週の金曜日、イスラエルとハマス間の紛争が激化する中、市場は安全資産への移行を余儀なくされたため、ゴールドは3%以上も急騰しました。

イスラエル部隊はガザ地区への襲撃を開始し、ガザ地区北部への住民に対して南部へ移動するよう警告しました。ハマスがイスラエル南部を奇襲攻撃した1週間後の先週末、この警告により、イスラエルによるミサイル攻撃は地上戦に移行しました。

金融界にとって、これは明確なリスクオフへの警告となり、市場は安全な避難所と見なす全ての資産に殺到しました。日本円でさえ、対米ドルに対して上昇しましたが、日銀が超緩和政策を維持しているため、ドル/円は介入警戒レベルである150円付近に引き続き近づいてたままです。米国債利回りの低下からも明らかなように、債券も選択肢となりました。米ドルは安全資産として注目されているため、国債利回りの低下は米ドルには影響はなかったようです。

ゴールドも安全な避難所の選択肢として浮上し、一時1オンス1,930ドルを超えて上昇しました。本日ゴールドの上昇は一服しているものの、地政学的な不透明感が依然として残るため、今後の中東情勢が悪化する場合、ゴールドはおそらく、5月と7月にレジスタンスとして機能した1,985ドル近くまで、さらに上昇する可能性があります。

フィラデルフィア連銀総裁は利上げ終了を示唆

また、FRBによる追加利上げ観測の後退により、ゴールドはより良い選択肢となっているのかもしれません。先週の木曜日の米CPI指数の予想以上の上昇により、市場は引き締め政策終焉前の最後の利上げ観測への確率を引き上げましたが、中東での紛争の悪化と、フィラデルフィア連銀ハーカー総裁によるハト派発言から、この利上げ観測もやや後退しました。

ハーカー総裁は、FRBによる利上げはおそらくすでに終了し、金利を維持することによって、金利政策が機能すると確信していると述べました。この発言によって、市場は0.25%の追加利上げの確率を32%とし、来年末の金利を、FRBの5.1%との予測を下回る4.7%と織り込んでいます。

そのため、多くの投資家は、これ以上利上げはなく、来年利下げが実施されると考えており、非利回りのゴールドは再び魅力を発揮しました。イスラエルとハマス間の紛争が激化するにつれ、米ドルが安全資産の流れを引き付けているとしても、金利経路予測の下方修正によって、今後の米ドル上昇が抑制される可能性があります。米ドルが一般的な上昇トレンドを再開するためには、今後の経済データとFRBメンバーの発言がタカ派に転じて、追加利上げと来年の利下げ幅を縮小するような見解を述べる必要があるでしょう。

原油供給への懸念から原油価格高騰

先週金曜日、カナダドルも米ドルに対して上昇しました。カナダドルは安全な避難所として分類されておらず、逆にリスク連動通貨と捉えられています。しかし、WTI原油とブレント原油ともに6%ほど上昇するなど、原油価格が再度急騰する中、金曜日のリスク回避は、カナダドルにとっては、プラス材料となりました。

イスラエルがガザ地区への地上戦を開始したことで、この紛争が産油国である隣国を巻き込む可能性が高くなっており、先週水曜日にサウジアラビアが市場安定を表明したにもかかわらず、原油供給の混乱への懸念が再浮上しています。

土曜日には、イスラエルが戦争犯罪を止めなければ状況が制御不能となるとイランが警告しました。これを踏まえて、イランはこの紛争に直接関与することを決定し、米国が今年イランとの外交関係改善への姿勢を軟化させるとしても、イランの原油輸出への制裁を強化する可能性も出てきました。

したがって、金曜日の原油価格高騰は、すでにこういった中東他国の参加への懸念がある程度反映されていることを示唆していますが、これらの懸念材料が現実的となる場合、原油供給への実際の影響から、WTI価格は95.00ドルの領域に戻り、さらに上昇する可能性があります。

米株式市場も地政学的緊張を反映

米株式市場では、ダウ・ジョーンズが金曜日に小幅上昇したにもかかわらず、S&P500とナスダックはともに下落しました。特にナスダックは、市場が金利経路を下方修正し、また大手銀行が予想を上回る四半期利益を報告したにもかかわらず、1%以上も下落しました。

これによって、株式市場が今のところ、企業の決算期よりも中東情勢を注視していることが示されました。しかし、地政学的な緊張がこれ以上エスカレートしないという条件付ですが、ハイテク大手の決算が始まると、この状況も変わるかもしれません。テスラとネットフリックスの決算報告は、今週の水曜日の株式市場閉場後に予定されています。